図1は、横軸に店舗の売上、縦軸に店舗網においてその売上を得る店舗数を示し、店舗網を構成する店舗の売上分布を曲線で表しています。縦の鎖線は、売上の下限を示し、この線の左側の店舗は、売上不振店になります。多店舗展開していると、図1の実線の曲線のように売上不振店が一定に割合(例えば、3割)出てしまうことが起きるのです。
より売上効率の良い店舗網を構築するには、どのようにすればよいのでしょうか。それは、不振店の発生割合を減らすことです。店舗用地の選定は、今までは、さまざまな地域で培われた店舗開発部のスタッフの経験と勘によって、手動で行われてきました。経験知は重要でありますが、おそらく、3割不振店が出るというのは、多くの店舗を展開する場合、人の能力の限界を表しているのではないかと思われます。
小売用地選定のAIプログラムは、各小売企業がもつ既存店の情報や店舗開発者の経験知、店舗用地周辺の地理情報を数多く収集し、AIに学習させることで作成されます。AIによる売上予測の方法は、既存店のデータを訓練データと検証データに分け、訓練データで予測モデルを作成し、検証データで予測モデルを新規店舗に適用したときの性能(汎化性能)を向上させることを目指します(図2)。小売用地選定のAIプログラムにより、不振店の割合を20%に低下できるならば、前掲の図1の矢印のように、店舗網における不振店数は破線の曲線へと減少し、店舗網の売上効率は改善されるでしょう。
地理学は、地球表面(地表面)を記述する学問として発展し、20世紀末には、GIS(地理情報システム)が登場し、コンピュータ上に地表面を再現できるようになりました。小売地理学では、地域に展開する小売店舗のさまざまな側面を記述します。店舗はもちろん、人口、交通、地形など関係しそうなものはすべて取り上げるのです。今までは、このような地理学の多面性(総合性)は、ほかの学問から批判の対象でありました。しかし、AIの時代になって、予測精度をぎりぎりまで追求するようになったとき、地理学のもつ現場感覚と多面性は、“懐が広い”と高い評価を受けるようになっています(アメリカでは最近そのように評価されています)。弊社は、地理学のもつこの多面性を活かし、精度の高い小売用地選定のAIプログラムを研究・開発し、売上効率の良い店舗網の再構築に取り組みます。
大量の情報を収集しデジタル化する時代では、小売企業は手動による伝統的アプローチに頼って生き残ることは難しく、AIによる立地評価の自動化を採用し、売上不振店の少ない店舗網に再構築することで、勝ち残ることができるのです。