平成28年度大都市交通センサス(国土交通省)の端末交通手段別人員表をもとに、GISで処理・分析して、駅勢圏のデータを作成しましたのでご紹介します。
駅勢圏のデータを使用すると、首都圏・中京圏・近畿圏内で、一定条件(通勤時間や通勤通学者率など)を満たす駅(大都市交通センサスで取り上げられている駅)に対し、駅勢圏を設定することができます。今、小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅の駅勢圏を設定してみましょう。
表1は、祖師ヶ谷大蔵駅の駅勢圏に関わる居住地基本ゾーンコードを示しています。ゾーンコード11219と11220は、初乗り駅人員(鉄道定期券人数:人/日)の駅利用割合から見て、「小田急線」の「祖師ヶ谷大蔵駅」の駅勢圏の中心となる地区になります。ゾーンコード11203と11204は、北側を通る別の鉄道路線「京王線」の「千歳烏山駅」の駅勢圏になり、ゾーンコード11214と11218は、「祖師ヶ谷大蔵駅」の東隣りの「千歳船橋駅」の駅勢圏になります。ゾーンコード11226は、「祖師ヶ谷大蔵駅」と「千歳船橋駅」、「成城学園前駅」とで三分される地区です。
図1は、小田急線の各駅への初乗り人員が100人以上のデータを使って、ゾーンコード地区ごとに各駅の構成割合とその人員数を円グラフでGIS上に表示したものです。祖師ヶ谷大蔵駅の駅勢圏は、灰色で陰影した北から南に連なる4地区で構成されます。地区11219と11220は、駅を中心に南側と北側の中心地区で、一部が西側の成城学園前駅に流出しています。北端の地区11214は、東側の千歳船橋駅の駅勢圏に含まれますが、かなりの初乗り人員が祖師ヶ谷大蔵駅にも来ています。南端の地区11226は、3駅の利用者がいる地区です。
ゾーンコード地区は、町丁目・字を数個含んだ大きさなので、図1に町丁目・字レイヤを重ね合わせ町丁目・字名を表示すると、駅勢圏の範囲がより具体的に把握できます。大都市圏都心部や市街地では、主要な交通手段として鉄道が利用されます。そのような地域で、駅前や駅周辺に店舗を立地させる場合、その店舗の商圏は、駅勢圏に大きく依存するので、駅勢圏の形成状態を知ることは重要です。
図2は、小田急線と京王線の鉄道路線の領域設定を示した地図です。赤色は小田急線の初乗り人員数(A)を、青色は京王線の初乗り人員数(B)をゾーンコード地区ごとに円グラフで表しています。小田急線の領域設定基準として、A≧Bを用いるならば、その条件を満たすゾーンコード地区を連坦させることで、2路線間に明確な領域の境界線を描くことができます。人口減少の時代にあって、鉄道事業者が自鉄道路線の領域を設定し、そのなかの人口変化を見ることは基本的作業になります。
領域設定には、排他的な境界線を描くかどうかで、二つ方法が知られています。図2では、小田急線と京王線の間に相互が重ならない「離散的境界」を設定しました。図3では、領域設定基準として、小田急線の駅の初乗り人員数≧201を用いており、凡例で下から3番目の青色(201~300)とそれより上の凡例の地区が小田急線の領域になります。同じ基準で京王線に対しても領域を設定すると、小田急線の領域は、2路線の境界線が領域周辺部で重なり合う「連続的境界」として設定されます。
一般に、人口変化のような中長期的事象を検討するときには「離散的境界」で十分ですが、店舗売上のような短期的事象を分析する場合は、「連続的境界」の方が適切と言われております。
図4は、東京都西郊の駅ごとに、ゾーンコード地区から駅への交通手段別利用者数(初乗り人員数)を集計したものです。棒グラフの高さが高いほど駅の利用者数が多いことを示しており、駅勢圏の大きさの指標になり、店舗立地に役立ちます。また、緑色は徒歩、黄色は自転車、ピンク色はバスといった駅への交通手段も示しており、駐輪場の整備などの都市計画に役立ちます。