市街地店の商圏と需要発生源がわかったならば、次に、都心に立地する店舗(都心店)について、その特徴を考えてみましょう。都心店が、ほかの地理的ビジネス環境に立地している店舗と大きく異なる点は、次のような需要発生源の相違によるものです。
需要発生源には、教科書によりますと(高阪,2014,p.11)、居住者R、従業者W、一時通行者Tの3種類があります。市街地店では、店舗の周囲に居住する住民、すなわち居住者Rが需要発生源になり、前回のブログで見たように、その商圏の形成状態は、駅勢圏によって規定されていました。同様のことは、都心店でも言え、駅Aの近くに立地する都心店では、図1のように店舗の周囲の地元居住者により商圏が形成されます。
しかし都心店には、この居住者以外にも需要発生源があります。都心では、鉄道交通が発達していることから、駅Aへは、図2に示すように、東京都のほかに、周辺の千葉県、埼玉県、神奈川県から、合計約3万人が通勤・通学しています。駅Aは、朝には、このような通勤・通学者(以下、通勤者)が駅Aに集中する大都市圏レベルの大きさの「集中的通勤圏」を形成します。夕方には、逆に、駅Aから大都市圏の駅に発散する「発散的通勤圏」が形成されます。この通勤流が、前記の2番目の需要発生源である従業者Wであり、店舗にとってもう一つの顧客発生源になるのです。
このような第2の需要発生源である従業者は、店舗の商圏形成にどのような影響を与えるのでしょうか。図3は、駅Aの周辺を除いた地域における店舗の商圏を表しています。通勤者の分布と同じように(図2)、1都3県から、薄いですが広く顧客を集めていることがわかります。これは、遠くからわざわざ店舗に来るのではなく、遠くから通勤し、通勤先の駅A周辺の従業地で店舗の顧客になるのです。これが、前記の2番目の需要発生源である従業者Wによる商圏なのです。
以上のように、都心店には、一般に、居住者と従業者の2種類の需要が発生します。特に、都心店で、夜間の居住者よりも昼間の従業者の方が多い場合は、市街地店とは、大きく異なった需要構成になります。そのような場合、都心店の距離圏別顧客分布を見ますと(図4)、市街地店とは異なり、地元商圏はコンパクトである一方、10km~30km圏からも広く顧客を集めます。都心店の立地計画・販売戦略を考える場合、この需要構成の相違と商圏の広がりを考慮することが重要です。例えば、都心店では、売上の休日/平日比と昼間/夜間比が高くなる傾向が現われます。また、顧客は、店舗近隣の地元住民と遠方からの従業者の2種類があり、商圏の形成状態は、市街地店のような距離逓減法則に従わず、10km~30km圏で高まりを示します。